中脳は脳幹の一部で,上は間脳に,下は橋に続く。脊椎動物一般にみられ,下等な動物では種々の中枢としての機能をもつが,動物が高等になるにつれて,それらの機能が間脳や大脳に移るために,脳全体に対する中脳の大きさは,高等になるほど小さくなる傾向がある。中脳は,ヒトでは著しく発達した大脳半球におおわれているので,自然のままでは,背面からも側面からもまったく認めることができず,腹面で大脳脚の一部をみうるにすぎない(以下,ヒトの中脳について述べる)。
ヒトの中脳を外からみると,上面には左右合わせて四つの高まりがみられる。これらは四丘体quadrigeminumと呼ばれ,前方の1対は上丘superior colliculus,後方の1対は下丘inferior colliculusと名づけられている。中脳の下面には1対の大脳脚cerebral peduncleがある。中脳からは二つの脳神経が出る。一つは上丘の高さで底面から出る第三脳神経(動眼神経)で,他は下丘の高さで上面から出る第四脳神経(滑車神経)である。これらは眼球を動かす筋肉(外眼筋)を支配しており,筋肉の働きの違いによって眼球をいろいろの方向に動かすことができる。
上丘は規則正しい,7層の層状の構造をしている。表層から深部に向かって,繊維の集まっている層と細胞の集団の層とが,交互に配列されている。上丘はその構造に対応していろいろの機能を行っている。最も重要なものは視覚に関係するものである。上丘は,大脳の後頭葉にある後頭眼野や前頭葉にある前頭眼野などの目の動き(眼球運動)をコントロールしている部分から司令を受けている。上丘からは動眼神経を出す動眼神経核に接続があるので,これらの経路の働きにより視野の中に入ってきた一つの物体に目を向け(注視し),また眼球を動かすことによって他の物体を注視することができる。上丘はまた視覚を介する反射の中継核ともなっている。
(1)光反射 これは目に入ってきた光の量を調節する反射である。たとえば光の量が多く,まぶしいときには瞳孔を縮小させて入ってくる光の量を少なくし,暗い所では瞳孔を開いて光の量を多くする。すなわち,網膜に達した光の刺激は視神経を通り,上丘と間脳の境界にある視蓋前域や上丘に入る。ここからは動眼神経の副核から出る副交感神経を介して,眼球の近くにある毛様体神経節,そして瞳孔括約筋に行く。瞳孔括約筋が収縮すると瞳孔が小さくなる。一方,同じ光の刺激は視神経から,他の中継核を介して脊髄にある交感神経核に伝えられ,交感神経に入る。交感神経は瞳孔散大筋を収縮させ,その結果,瞳孔が開くことになる。
(2)調節反射 これは近くの物を見ようとするとき,物がよく見えるようにするための反射である。すなわち,左右の眼球が内側に向かうと同時に,瞳孔が縮小し,目のレンズの屈曲率が増す(レンズが丸みをおびる)。これらの働きは網膜に入った視覚の刺激が上丘や大脳皮質を経由して起こるものである。
(3)視覚や聴覚の刺激による運動反射 これは目の前に飛んできた物体を反射的に避けたり,音の刺激の方向に反射的に頭を向けたりするときに役立っている。いずれも上丘に達した光や音のインパルスが,上丘から出る視蓋脊髄路により頸髄に伝えられることによって起こる。
下丘の中にある下丘核は聴覚の経路の中継核である。外界から内耳に入った音の刺激は,いろいろの神経核を通り,中枢に向かう経路(外側毛帯)により下丘核に伝えられる。下丘核からは内側膝状体,次いで大脳皮質の聴覚野に行く。下丘核は他の聴覚の中継核とともに,音の高さの分析や音の方向の判断などの働きをしている。
上丘の高さにある左右1対の大きな神経核で,大脳の運動野とか小脳核からの繊維を受ける。次いで赤核延髄路や赤核脊髄路を出して,不随意の運動の調節を行う。とくに赤核脊髄路は,随意運動を行う錐体路の働きを助けて,関節の屈曲を起こす屈筋に促進的に作用している。一般に動物が高等になると錐体路の発達がよくなり,赤核脊髄路は退化する傾向にある。これに対して,下等な動物では錐体路の発達が悪く,その働きはおもに赤核脊髄路によって行われる。
大脳脚は,大脳皮質に始まり橋核に終わる皮質橋路と錐体路からできている。錐体路は大脳脚の中央を通る随意運動の経路で,皮質橋路は錐体路をはさんで,その内側と外側を走る。皮質橋路は前頭葉,頭頂葉,側頭葉,後頭葉から起こり橋核に終わる。橋核からは小脳に行く橋小脳路が出る。この経路は大脳からの運動の司令を小脳に伝え,上肢や下肢の共同運動を円滑に行わせるのに働いている。後頭葉の視覚野や側頭葉の聴覚野から起こるものは,視覚や聴覚による運動の調節にも役立っている。
黒質は大脳脚の背側部にある神経核で,網様部と緻密(ちみつ)部の二つの部分からできている。網様部の細胞には鉄とリポフスチンが多く,緻密部の細胞にはドーパミンとメラニンが多く含まれている。いずれも大脳基底核のうちの線条体と淡蒼球からのγ-アミノ酪酸を含む繊維によって抑制作用を受けている。逆に網様部は視床の腹側核を介して大脳の運動野に投射し,緻密部からのドーパミンを含む繊維は線条体に投射している。黒質はその結合や機能の上から,通常,大脳基底核に含めて取り扱われることが多い。大脳基底核とともに,熟練した運動の背景として,筋肉の緊張,調和のとれた運動を行うための調節を行っている。なかでも大脳の連合野に生じた運動の意志(行いたい運動)のプログラムを組み立てる役割を担っている。黒質が障害を受け,ドーパミンの量が減少するとパーキンソン症候群が起こる。
この神経核は橋と中脳の境界の高さで,中心灰白質の外側部にある。青斑核の神経細胞はノルアドレナリンを含み,これらの細胞から出た繊維は脳内に広く分布している。その機能はレム睡眠の発現に関係している。
執筆者:松下 松雄
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中枢神経系(脳脊髄(のうせきずい))の脳幹の一部で、上方は間脳、下方は後脳(橋(きょう)と小脳)につながる。脳幹のうちでは、あまり発育していない部分であるが、重要な部位である。脳幹の中心部よりやや背側(はいそく)には、中脳水道(シルビウス水道ともよぶ細い中腔(ちゅうくう)の管)が貫通している。この上方は第三脳室、下方は第四脳室に通じている。中脳水道より背側を中脳蓋(がい)とよび、前後左右4個の隆起が、ちょうど椀(わん)を伏せた状態で突出している。このうち、前方の2個を上丘(じょうきゅう)、後方の2個を下丘とよび、全体を四丘体(しきゅうたい)ともいう。上丘には視神経の一部がきており、視覚の複雑な反射機能に関与していると考えられる。下丘には聴覚の神経路がきており、聴覚反射に関係するほか、音源の位置を判断するときに重要な役割をしていると考えられる。下等脊椎(せきつい)動物では、上丘が視覚の中枢にあたり、視蓋とよばれる。中脳水道より腹側は広義の大脳脚で、そのうち、背側部分を中脳被蓋、中脳被蓋から両側腹側に突出した部分を狭義の大脳脚とよぶ。中脳被蓋には滑車神経や動眼神経の起始核があり、不随意運動に関係する赤核(せきかく)、意識の機序(メカニズム)に関係する網様体、また、脊髄から大脳半球に上行する神経路などがある。中脳被蓋と狭義の大脳脚との境の部分には、不随意運動に関係する黒質(こくしつ)がある。黒質の傷害はパーキンソン症候群に関係があると考えられている。なお、大脳脚(狭義)には、大脳皮質から下行する運動に関係する神経路(錐体路(すいたいろ)、錐体外路)がある。
[嶋井和世]
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…脊髄管がその後も原形を比較的よく保ちながら脊髄に分化,発育するのに対して,脳管は胎児の成長につれて複雑に変形する。まず脳管は前脳胞,中脳胞,菱脳(りようのう)胞の三つの膨らみ(脳胞brain vesicle)に区分されるが,さらに前脳胞は終脳胞と間脳胞に,菱脳胞は後脳胞と髄脳胞に区分される。このように脳管が五つの脳胞から成立する時期は,ヒトでは胎生5週である。…
※「中脳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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